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だらだらと書いてます。


by luchino001
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梅雨の闇夜

 梅雨のイメージというと、しとしとと時間をかけて降り続ける雨を思い浮かべるけれど、今年の梅雨は容赦なく地面へ向かって叩きつけてくるような降り方をする。
 でも、梅雨はやはり雨が降らないと様にはならない。

 昨晩も強い雨が音を立てながら降り続けていたが、その雨の影響なのか、珍しく家中の照明が消え、停電になった。
 明かりが消えていた時間は、おそらく3分くらいだったと思う。
 暗闇になるとすぐに、普段の夜よりも部屋の中の闇が一層濃いことに気がついた。
 停電は近所のコンビニや街灯、信号まであらゆる光を消し去り、空を照らす月や星も梅雨空によって隠されている。
 そのため部屋の窓には暗闇しか入ってこなくなり、日常ではあまり体験できない、濃密な闇ができていたのだった。


 『五月雨』という言葉がある。
 陰暦の五月は、陽暦の六月頃にあたり、昔の人は梅雨のことを五月雨と呼んでいたそうだ。
 梅雨の間は空には雨雲がたちこめどこか薄暗く、夜になるといよいよ闇は濃くなり、真っ暗闇になる。
 つまり、昔の五月雨は、闇の濃度が一年で最高の時期になるのである。
 さらに、よくよく考えてみると、夏至も陰暦の五月に当たることになり、この時期は一年で最も光が強い期間でもあったのだ。
 なんと面白い季節なのだろう。
 しかし、現代の町では、光が完全に絶えることは殆どないといって良い。
 満月と新月の夜の明るさの違いすら分かりにくくなってきているほどである。
 現代の日本で昔と同じ光と闇のコントラストを体感できるところは随分少なくなっているはずで、こんな豊饒な時間を全身で感じ取ることができないのは、何だか少し貧しいような気がするのだ。
 昔はこの季節になるといつも、最高の光と最高の闇を同時に味わうことができたことを想像すれば、昔の人の感受性は、現代人とはかなり異なったものになっていたのかもしれない。

 停電によって偶然に作られた、圧倒的な闇の中に身を委ねていると、奇妙なことに気持ちが落ち着く。
 外からは蛙の無数の鳴き声と、木々や草の葉を揺らし地面を叩く雨音が楽器の和音のように聞こえてくる。
 高い湿度も暗闇の中にいると、湿気のまとわりつくような感覚が鬱陶しさ以前に季節感を感じさせ、どういうわけか、なかなか心地よいとさえ感じてしまう。
 時間にすればたった3分だが、濃厚な闇に包まれた室内で流れるその時間は、時計では計ることのできない、まったく別のところで流れているものだった。
 高密度な闇と湿りきった重い空気と屋外で響きわたる音、その気になれば梅雨も意外といいもんかもしれませんね。
by luchino001 | 2005-07-15 00:36 | 思ったこと